人間でも肥満が体に悪いのは常識ですね。
糖尿病、高血圧、心疾患など生活習慣病を悪化させる原因になり得るのはご存じの通りです。肥満と病気の関連を考えてみたいと思います。
1.どこからが肥満?
よく、「ダックスで5kgあるけど肥満ですか?」なんて質問がありますが何キロあるから肥満という問題ではありません。人でも「身長を基準に何キロまでが適正」なんて計算がありますね。
犬の場合も体長を基準にした計算式があってもよさそうなものです。ちなみに胸の先端からお尻の後端までを体長といいます。しかし、自分の犬の体長を計ったことのある人はほとんどいないですよね。
<ろっ骨を触ってみる>
簡易に肥満度を計る手段としては触診によるものが一般的です。これは素人でも簡単にできます。
肋骨が外から触れる。骨盤が外から触れる。だいたいこの2点です。おそらく前者の方がより簡単でしょう。もし肋骨がころころと触れないようだと肥満です。これはどの犬種でもあてはまります。
<病気で太る>
太る病気というのが存在します。先にあげたクッシングシンドローム、糖尿病、に加え甲状腺機能低下症、インスリノイーマなどの病気があると肥満になりがちです。
今まで太っていたのに急激に痩せると危険なサインですから診察が必要です。
<運動しても犬は痩せにくい>
犬の基礎代謝はもともと高いので散歩程度の運動ではたいしたカロリーの消費に繋がりません。かなりの長時間走ったり跳ねたりしないかぎりは運動で痩せるとは考えない方が良いです。
アジリティーや猟犬クラスの運動を毎日するのは通常の飼い主にはおそらく不可能に近いでしょう。
2.肥満で増加する病気(1)関節・背骨
(1)関節
過大な体重は間接の負担を増大します。
動物は4本脚なので力士に比べればまだましなのかもしれませんが、高いところから飛び降りたりした場合、負荷に関節が負けてしまうことがあります。肥満犬では膝の前後のスライドを止める十字靭帯の断裂がおきやすいです。
これを切ってしまうと着地時に大腿骨とすねの骨がすれるので痛くて歩けません。手術のお値段も結構高いです。
関節痛犬の体重の荷重は前脚の方が大きいのですが、なぜか膝をよくやられます。元から膝蓋骨の脱臼がある犬は特に肥満でグレードが悪化することも多いです。一方、大型犬では膝よりも肘の関節に炎症が来る場合が多いようです。レトリバーなど股関節の浅い系統の犬種はこちらも要注意。大型犬の股関節脱臼は治療がやっかいです。
(2)背骨
過大な荷重は脚のみならず背骨にも負担になります。
背骨は首に7本、背中13本、腰7本のバラバラの骨パーツの組み合わせです。この個々の骨が変形して隆起してくる場合があります。変形性脊椎症と呼ばれます。
背骨が変型している (骨が下方にせり出して前後につながったように見える)。
骨は変形しなくてもパーツ間のクッション材である椎間板が押しつぶされてあらぬところに飛び出てくる場合もあります。こちらは椎間板ヘルニア。
背骨の中にはトンネルがあって脳から直結の脊髄を格納してありますが、変形した骨や突出した椎間板がこの脊髄を圧迫することがあります。圧迫部位から尾側に神経の伝達がしなくなるので麻痺をおこします。
肥満からくるこれらの疾患は圧迫部位が1ヶ2ヶでは無いことも多く、手術もやっかいです。また、年齢を追うごとに悪化することが多いです。
3.肥満で増加する病気(2)心臓・糖尿・肝臓
(3)心臓
体脂肪が増加するとそれだけ血管も増加、送り出す血液も増加しますので心臓の負担が増えます。まず、心臓のサイズを大きくしてがんばるわけです 。これが心肥大といわれるものです。
この段階ではなんら症状はありませんが、心臓のパーツにも負担がかかります。何年かするうちに心臓の弁がきちんと閉じなくなって逆流をおこすようになります。全身に送る左心室に負担が大きいので通常左の心室と心房の間の僧帽弁が不具合をおこす場合が多いです。僧坊弁閉鎖不全と呼ばれます。
進行すると痰がからんだような咳を出すようになります。これとても苦しい。肺胞に水が溜まって溺れているのです。
閉じなくなった弁は薬で閉じるようにすることはできませんので通常一生、薬で心臓の補助が必要になります。
(4)糖尿
肥満犬が水を大量摂取する時は要注意 人と同じで肥満犬に糖尿病が多い傾向があります。
太っていてさらによく水を飲むという時は糖尿か、クッシングというホルモン異常の場合が多いので要注意です。
糖尿病は食欲がなかなか落ちないので飼い主も放置する場合が多く、病院に来たときはすで手遅れということもあります。
毎日朝晩インシュリンの注射を自宅で行うってかなりの手間ですし、犬猫の糖尿病は一度かかってしまうと人ほど長期生存ができません。インシュリンを使用しはじめて長くて2〜3年で亡くなることがほとんどです。
(5)肝臓
『肥満でGPTが高い』というのは人間でもよくある話です。(※GPT…ALTとも呼ばれます。肝臓の健康値指標。この数値が正常より高い場合、肝細胞の中にある酵素で肝細胞が多く壊れているということになります。)
これはまだ序の口。高度の肥満をつづけていくと肝臓の細胞はあまった糖分を脂肪として自らの細胞内に貯蓄します。これが脂肪肝といわれるものです。
この時点で痩せれば肝細胞は元に戻ります。
が、さらに脂肪を溜め込む状態がつづくと肝細胞は最後には脂肪に埋め尽くされ消失。肝細胞の変わりに肝臓の繊維のみがのこり、色も黄土色に変わって硬くなっていきます。これが肝硬変です。
肝臓は本来再生能が高く、壊れても切り取っても再生します。が、肝硬変の場合は別で再生しようにも元の肝細胞が残っていないので再生できません。
肥満は結構怖いものだということが分かったのでは?
「よし 明日からは心を鬼にして食べさせない!」
なんてことを言う方もいますが、犬でも猫でも自分が食べ続けたらどうなるかが理解できませんので食い続けるわけです。飼い主しか食事や肥満予防の管理ができないのですから、きちんとした食事を管理することは鬼なんかではないのですね。
むしろ、“かわいいかわいいほれ食え食え”というのが鬼かもしれません。
肥満が予想されるのに餌などをあげちゃうという新聞やニュースでたまに見る「未必の故意による」というやつですね。デブが体に悪いなんて誰でも分かってるのですから。
4.犬のダイエット方法
やはり食事の量で痩せるのが一番です。フードのパッケージに何kgの犬にはどれくらい与えるとの目安が書かれていますが現在肥満で10kgの犬に10kg分を与えてもダメ。目標とする体重の給餌量を参考にします。その量だと通常は体重維持量にあてはまりますから痩せるにはそこからさらに20%減らした量を与えます。
<一日に必要なカロリーの計算方法>
○犬の安静時1日の必要カロリー計算式(簡易タイプ)
RER=30×体重+70kcal
肥満の場合はこの計算式の「体重」も「理想体重」を入れて計算します。
これが一日の安静時にも必要なカロリーです。
RERに1.2から1.8を掛けると、成犬の運動内容を含めた1日に必要なカロリー(DER)になります。通常の体型の犬ならば1.5をかけるとよいでしょう。
また
・生後4ヶ月までの子犬はRERに3を掛ける
・4〜8ヶ月や授乳中の母犬は2を掛ける
などの応用もできます。
痩せるにはこのDERよりも少ないカロリーを与えればよいだけです。
目安としては1を掛けた値を1日の給餌カロリーに設定すると普通は自然に痩せていきます。
1ヶ月に体重の5〜10%のダイエットを目標にします。それ以上の減量は危険です。
犬は与えられた量しか食べることができませんから我慢できずに食べてしまい太るというのは犬にはありません。与えなければ確実に痩せます。
しかし、その量ではどうあっても我慢できずに気の毒すぎるという場合は肥満犬専用の処方食を使うと同じカロリーでもたくさんの量を食べることができます。
勘違いしてはいけないのは肥満用を食べたから痩せるのでは無いという点です。肥満用フードでも量を多く食べればカロリー過剰になって太ります。
もっとも肥満の犬の大多数はフード以外にオヤツや人のおかずをもらっていることが多く、毎日の食生活の見直しを測り、無駄なカロリー摂取を断ち切るのが初めの一歩でしょう。
最後に…
肥満というものは様々な病気の要因を持っているのです。普段から与えるものに注意し、犬の健康管理を心掛けてくださいね。