今年も暑い夏がやってきます。毎年のように過去最高気温が更新されて、うだるような暑さが当たり前になりつつあります。しかし、わかっていても熱中症になる人は後を絶ちません。そこで今回は“汗博士”として著名な五味常明先生に、現代の日本人の身体と熱中症対策について教えてもらいました。

- ■名前
- 五味クリニック院長
五味常明(ごみつねあき)先生
- ■プロフィール
- 医学博士。流通経済大学客員教授。日本心療外科研究会代表。患者の心のケアと外科的手法を組み合わせる「心療外科」を提唱。わきが・多汗症治療を専門とした20年以上の実績から、汗・においの専門家として数多くのTVや雑誌に出演。
近著『暑さに負けないクールダウン健康法』(アスコム)ほか著書多数。
節電モードで熱中症が急増!?
昨年夏、例年にない一斉節電を試みた多くのオフィスでは、暑さにぐったりで仕事が進まない、汗がベトベトして不快、など苦悩の声が。
これは、現代の日本人がエアコン依存で暮らしてきた証拠です。移動中を含め行く先々すべてに冷房がきいた生活に慣れてしまうと、上手に汗をかけなくなります。 現代人の集中力が落ちるのは、暑いと感じても上手に汗をかけず体温を下げれなくなってしまったから。塩分の多いベトベト汗は、汗の出口である汗腺の機能低下によるものです。
上手に汗をかけないと必要なミネラルを失い、体温の上昇に耐えられなくなって人間は倒れてしまいます。これが熱中症です。

「絶対クーラーをつけないぞ!」は絶対ダメ
いきなり極端な節電モードに切り替えるのは非常に危険です。我慢しすぎて自覚症状を見過ごせば、熱中症で怖い思いをすることに。日本には四季があり、冬と夏では活動している汗腺の数が違います。
梅雨の時期から半身浴や軽い運動などで汗をかき、身体中の汗腺を目覚めさせて準備を。そのうえで必要ならクーラーも活用し、徐々に設定温度を上げたり時間を短くして、クーラーから卒業できるとよいでしょう。
炎天下じゃなくても気絶する!? 熱中症のおもな症状
以前は炎天下で起きるとされていましたが、現在では室内熱中症が知られています。軽度ならすぐ回復しますが、特に高齢者は「睡眠時熱中症」という脳梗塞に似た熱射病で亡くなることも。
このように熱中症には3つの段階があり、水分とミネラルが不足することで始まります。順に重症度が高く、意識を失うほどの症状になれば最も重篤で、命の危険さえあるのです。
- ○熱けいれん
- 血中の塩分低下によるもの。足などがけいれんする。真水で水分補給しても起きる。スポーツドリンクや塩分の摂取を。
- ○熱疲労
- 脱水症状によるもの。脱力感やめまいを感じる。必要以上の汗をかき水分が不足した状態。水分補給して体を冷やす。
- ◎熱失神
- 脳の血流不足。脱水が続いて血圧が低下するもの。数秒で意識が回復し、問いかけに応答できる。涼しい場所で水分補給して身体を冷やす。
- ●熱射病
- 脳障害。汗が止まり、著しく対応が上昇する緊急事態。倒れて意識を失う。すぐに救急車を呼び、急激に身体を冷やす応急処置が必要。
どうすれば予防できるの?
- 1水分を補給する
- 2身体を冷やす
水分補給は「のどが渇いてから」では間に合わない!
体温が上がれば、身体は熱を下げようと汗をかきます。汗腺機能が低下していれば、室内でも成分濃度の濃い汗を大量放出。汗は蒸発して気化熱で体温を下げるため、濃度が濃いと多量の汗を要します。このとき水分とミネラルが一緒に失われるため、汗をかいた後はミネラルを含んだスポーツドリンクが最適です。水なら塩分とともに摂取を。
なお、のどが渇いた時が身体の水分不足時とは限りません。よって、こまめに水分補給を。汗をかいたら飲む。真夏の外出では20〜30分おきに習慣的に飲む。
がぶ飲みは逆効果なので少量ずつ飲む。この水分補給が熱中症を予防します。

「脳」を冷やして、不眠と睡眠時熱中症をダブル予防
快眠を左右するのが入浴後の発汗です。入浴後、クーラーで急激に冷やすと、皮膚の温度センサーが勘違いして途中で汗を止めてしまいます。このとき、熱いままにされるのは「脳」。
人間は体温を下げながら眠りに入りますが、熱いままの脳はなかなか眠れません。もっと汗を出せと命令し、いつまでも寝汗が止まらず、ますます不快になるのです。このまま脱水症状になり、内臓を守るために発汗が止まってしまうと睡眠時熱中症に。
対処法は脳を冷やすことです。入浴後の発汗はうちわや扇風機でなるべく自然に体温を下げます。汗が完全に引いてから服を着ましょう。寝苦しいときは、氷まくらや冷却シートで脳をやさしく冷やすと効果的です。寝入りばなの発汗は自然なことなので、汗が蒸発しやすいゆったりした衣服や寝具がよいでしょう。

「一気に冷やす」が脳には逆効果
「急激な温度変化を避ける」ことも熱中症の大切な予防法です。まず、移動後や入浴後など、体温の上がっているときに「クーラーで急激に身体を冷やす」「ギンギンに冷えたビールや氷の入った飲み物を飲む」このふたつを避けましょう。
脳の適温は内臓よりも低い37度前後です。脳がまだ熱いのに発汗をピタリと止めてしまうのが、急激な温度変化。さらにまたすぐ屋外に出ると、脳の命令と皮膚のセンサーが両方反応して大量の汗をかき熱中症の危険がさらに高まります。この大量の汗は成分濃度が濃く、ダラダラと流れて蒸発しにくい「悪い汗」です。逆に「よい汗」は、サラサラですぐ蒸発して、少量で効率的に体温を下げます。
汗の役割は蒸発です。99%が水ですが、残りの成分は血液とほぼ同じ。血液にはミネラルをはじめ塩化ナトリウム、乳酸や尿素などの老廃物、アンモニウムなどが混じっています。汗腺は、水分をろ過してほかの成分を血液に戻し、残りを汗として外に出します。上手に汗をかけるということは、汗腺の質がよいということです。汗腺を使っていなければ、ろ過の機能がすぐ落ちてしまうもの。このようにして、エアコン依存の現代人は「悪い汗」ばかりかくようになったのです。


「脳」を意識して身体を冷やす
脳細胞は熱に弱いため、いちばん大事な脳にダメージを与えてしまうのが熱中症。仕事の外回りや通勤途中に倒れてしまわないよう、効果的に冷やす場所を覚えましょう。次のような症状があれば、脳に近い「おでこ」「首」、そして「脇」を集中的に冷やします。


この場合は、応急処置なので、急激に冷やしてもかまいません。数分で症状が進んでしまう場合もあるので、とにかく脳を守りましょう。水分補給もお忘れなく。周囲の人が倒れたときは、イラストのすべての場所を急激に冷やし、涼しい場所で脚を高くして寝かせ、水分を与えましょう。意識がなければ即救急車を呼びましょう。
快適さを求めて冷やすなら
発汗を止めてしまう急激な温度変化は避けたいので、やさしく冷やすのが基本です。「手首」を流水にあてるなど、冷やしやすい場所から冷やしましょう。「おでこ」「首」「脇」などは、脳に近く、うちわであおぐにはもってこいのスポット。脳に近い場所は、濡らして絞ったハンカチをあてたり、水で冷たくなるスカーフなどでやさしく冷やして。冷却シートや布を巻いた保冷剤も有効です。仕事中に服に汗が沁みて困るときは、衣類の上から使う冷却スプレーなどが便利でしょう。抗菌効果を備えたタイプも多くあります。
五味先生からのアドバイス
簡単にできる汗診断で熱中症対策
熱中症は梅雨明けの急に暑くなる頃が最も多いとされるので、私は梅雨時期の汗腺トレーニングをおすすめしています。汗が嫌だという女性は多いですが、よい汗はすぐ蒸発してにおわないので安心してください。また、過ごしやすいうちに自分の汗をなめてみて、味で基準を知るのも熱中症対策には有効です。どのくらいしょっぱいかで、よい汗か悪い汗か判断できちゃいますよ。簡単でしょう?