原因
アナフィラキシー反応とは薬物や異物(食物を含む)に含まれる「抗原」が体内に侵入することによって、生体自身が起こすアレルギーのことです。人間でもハチ毒アレルギーや蕎麦アレルギー等が有名ですね。本来病気を治すために投与する薬物も元々は体内に存在しませんから異物と判断されることがあります。背景には特定の系統や品種など動物側の遺伝学的な要因があると考えられています。
体内に侵入した抗原に免疫が応答して「IgE抗体」が作られ、抗原の再侵入に備えて準備がされます。IgEの大部分は肥満細胞や好塩基球の表面に結合していて、この肥満細胞は体中の結合組織に存在しています。抗原が再び体内に侵入すると、抗原は肥満細胞と繋がったIgEに結合して肥満細胞の脱顆粒を引き起こします。脱顆粒とは肥満細胞の中に充満しているヒスタミンやその他の生物活性を有する成分を顆粒から血中に放出することです。この反応により血管自体や血管を通した全身の臓器に様々な影響を及ぼします。
このように、アナフィラキシーの発症にはまずIgE抗体が作られる必要があるので、薬物におけるアナフィラキシー反応の場合は2回目の投与時に注意が必要となります。 Ige抗体が作られてから抗原の再侵入までの時間経過は反応の有無に関係が無いため、最初の抗原が侵入してから十数年後でも注意が必要です。
症状
症状は様々ですが、発現時間により大きく2つのパターンに分けられます。
<急性アナフィラキシー>
抗原が侵入して数分〜30分以内に起こる反応です。
ショックと呼ばれる大変危険な状態を示します。
肝臓や腸で血管から血液が漏れ出て、急激に血圧が下がります。最初に興奮が見られ、よだれを出し、嘔吐、脱糞、放尿と続きます。ここで対処が遅れると虚脱、呼吸の低下、痙攣、昏睡へ進行し、死亡する可能性もあります。
<発疹(じんま疹)>
抗原が侵入して30分後〜2,3時間以内と少し遅れて出る反応です。
血管から周辺組織に血漿が漏れ出て皮膚に膨疹が出現します。顔面に出た場合はパンパンに腫れて一時的に顔が変わってしまいます。皮膚全体に広がることもあり、ヒスタミンが末梢神経を刺激することにより相当な痒みを伴いますが、生命に関わることはありません。
治療
<急性アナフィラキシー>
緊急治療が必要です。点滴や注射でショックの状態を改善させて、ヒスタミンの影響を抑える治療を行います。
<発疹(じんま疹)>
抗原曝露後に遅れて現れる発疹では生命に関わることはありません。注射でヒスタミンを抑えれば全身のむくみは速やかに消失し、痒みもなくなります。
対策
アナフィラキシー反応はアレルギーの一種です。抗原との接触を避ければ起こりません。そのため食物も普段から主食以外の物を与えないようにする習慣が大事になります。人間の食べているものは種類が実に様々なので、薬物による反応以上にアナフィラキシーを起こす可能性が高いと言えます。
薬物で反応してしまう身近な例としては予防ワクチンがあります。某ワクチンメーカーが公表しているデータによると、ワクチン接種によるアナフィラキシー反応を含めた副作用の発生率は0.011%とのことです。これを多いと見るか少ないと見るかは人それぞれですが、獣医師でも発生をあらかじめ予測することは不可能です。
最近は混合ワクチンといって複数の病気に対するワクチンが一緒になっているため、あらかじめこの組み合わせを減らしてワクチン接種を行う方法が対策として一般的です。ただし予防できる病気が少なくなるので、地域性や動物の状態を考慮する必要があります。また母犬からIgE抗体を受け取っている場合は初めてのワクチン接種でもアナフィラキシー反応を起こすことがあるので、幼犬の1回目および(特に)2回目の接種時は後に様子を観察できるようになるべく午前中に行いましょう。かかりつけの先生に確認してワクチンの銘柄(製造メーカーや種類)を把握しておくと安心です。
万が一アナフィラキシーが起こってしまった後は、次回の接種からは反応を出にくくするためのワクチンプログラムに従う必要があります。こうした情報は転院時や引越し先の病院で求められるので、記録を大切に保管しておきましょう。