犬のワクチンと免疫(液性免疫)

体内の免疫システムは外部からの侵入者だけではなく、体内にできてしまった異物細胞もやっつけることができます。それが細胞性免疫です。今回は細胞性免疫についてみていきましょう。

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目次

免疫とは、ある特定の病原体に一度感染して回復すると、
同じ病原体に感染しなくなるシステムのことです。
「それはなんとなく知っている」という飼い主さんも多いのではないでしょうか。
免疫には「液性免疫」と「細胞性免疫」の2種類があります。
今回は、ワクチンに関わりの深い、液性免疫のしくみについて見てみましょう。

1.抗体の動き

「免疫」は体に侵入してきたものと戦う仕組みのことです。
抗体は免疫の中の一つで、病原体が体内に侵入した時に体内で作られ、病原体をやっつけてくれるもののことです。一例として、パルボウィルスのワクチンを注射するとパルボウィルスに対する抗体ができます。抗体の量がある程度の値をキープできていればパルボウィルスが体内に侵入しても抗体がやっつけてくれます。感染したかどうかをこの抗体の量で推察して診断に用いることもありますね。 ワクチン未接種なのに抗体の量が多ければ感染している可能性が高いと推察できます。抗体がウィルスや細菌を退治する仕組みの一例をここで簡単に説明します。

ここでは、病原体を侵入者に例えて、その侵入者を爆弾でやっつけると仮定しましょう。ただし、爆弾を爆発させるには、爆弾スイッチをONにするための鍵が必要です。それが抗体です。

病原体(ウィルスなど)‥‥侵入者
抗体‥‥爆弾スイッチの鍵

鍵穴は侵入者によってさまざまなので爆弾を爆発させるには個別の鍵が必要です(ただし、ある程度形が似ていれば開きます)。この鍵がある程度の数そろっていれば、病原体が侵入しても感染する前にやっつけることができます。

2.抗体がばらまかれるまでのしくみ

(1)見回り役が人相書きを作る
血液中には身体にとって異物(侵入者)がいないか常に見回りをしている細胞がいます。ウィルスや細菌が体内に侵入すると、この見回り役がまずはじめに異物を食べます。食べた上で、「こんな野郎が侵入していやがった!」という情報を提示します。
この見回り役は白血球のひとつでマクロファージといいます。

(2)手配書を伝達係が配達する 
「侵入者発見!食ったぞ!食ったぞ!犯人はこういうヤツ!」と見回り役(マクロファージ)は手配書を伝達係に渡します。伝達役の名前はヘルパーT細胞です。
伝達係は伝達先に指名手配書を渡すのですが、配達先が2種類あるので二手に分かれます。

配達先その1‥‥「殺し屋」リンパ球グループ
配達先その2‥‥「合い鍵屋」Bリンパ球

※「殺し屋」リンパ球グループは「細胞性免疫」に関係します。次回の犬の飼育に役立つ知識で詳しく説明します。

(3)合鍵屋が爆弾の鍵をばらまく 
手配書を受け取った合鍵屋のBリンパ球はその情報をもとに合い鍵をたくさん合成して血液中にどんどん放ちます。
爆弾スイッチの鍵を大量にまかれた侵入者はどんどんその数を減らし、しまいにはいなくなってしまうのです。

合鍵の形はある一定期間は記憶されていて、同じ侵入者が入ったとしても即鍵をばらまかれて死んでしまうので感染が成立することはありません。しかし合鍵屋も常にいろいろな鍵を作らなくてはいけないので、マスターキーの保存ができずに一定時間が過ぎると忘れてしまい、また同一犯の侵入を許すことになります。
この抗体という鍵を用いて外部からの侵入者を叩くシステムを液性免疫といいます。

3.ワクチンはなぜ毎年接種しなければならないの?

ワクチンは前述の合鍵システムを利用しています。
パルボウィルス弱毒生ワクチンを例にしてみましょう。これは病原性をまったく無くしたパルボウィルスを身体に入れ、体内で一度増殖させます。病原性は無いので無害ですが、犬が発熱する事もあります。
体内で増殖した弱毒パルボウィルスはマクロファージに捕捉され、手配書をヘルパーT細胞に渡されてBリンパ球により抗体を作られてしまいます。
次に強毒のパルボウィルスが体内に侵入したとしても、同種の鍵があるので感染は成立できない‥‥という仕組みになっています。毎年接種しなければならないのは鍵の保存期間が、犬によっては短く1年しかないためです。

最後に…
今回は液体性免疫についてご紹介しました。免疫を作るためにワクチン接種はとても大切です。免疫についてよく理解して、愛犬の健康を考えてあげてくださいね。

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