
ただし、今年は暖冬だったので、病害虫ものんきに冬越ししたことでしょう。小さなバラのつぼみにゾウムシや、大事な茎にチュウレンジハバチ、ほかの病害虫も、こまめに発見、捕殺、あるいは病気の葉っぱはもぎ取るのが日課です。もちろん誰にとっても、春は他の仕事も忙しい時期なので、ほんの5分、10分、バラの周りを偵察するだけでも今の時期は大切な園芸作業といえるのではないでしょうか。
庭の維持・管理に思うこと
さて、「人は家を持てる年齢になって、はじめて本当の意味でのガーデニングに目覚める」英国で目にした雑誌のコラムの一節です。まあ、一概にいいきれないような気もしますが、自分の城を持つ以上は、花や緑で暮らしを彩ることが豊かな暮らしの第一歩というような気がしますし、花や緑のない家やマンションは、どうしても殺風景に感じ、人間味や味わいに欠けます。
ただ、ひと言でガーデニングといっても、一部の人にとっては、時の経つのも忘れて打ち込める情熱の対象ですが、そうでない人にとっては、猛暑も厳寒もお構いなく家の外で待ちかまえている、単純な家事労働にすぎないかもしれません。めんどくさいから、バラなんて植えない。そんな発想も理解できます…。
以前、私が住んでいたロンドンの住宅地では、ほとんどのお宅が契約で毎週やってくるプロのガーデナーに庭の管理を任せていました。比較的安価にプロのガーデナーを雇えることも一因でしょうが、日本の場合は、伝統的な日本庭園を除き、庭は家の主によって管理されているのが大半ではないでしょうか。害虫や雑草のはびこり方など、日本の気候は冷涼な英国の比ではないので、庭の維持管理はやはり大変です。
15年前のロンドンの私の庭。このバックガーデンは、好きなように花を植えていた。
見られる緊張感はないが、リラックスできた。フロントガーデンならもっと整った印象に。
それでも、実際に東京郊外の住宅地を歩くと、素敵に花や緑を飾る家々が増えています。バラを植えているお宅も少なからず見かけます。バラは花のない時期は、それこそかなり殺風景ですが、咲いている時期の注目度はかなりのものです。
バラだけでなく、花の季節は、見事に咲いた花があれば、視線はそこに釘付けになります。庭の主もきっと素敵な人なのだろうな。そんな想像もしてみます。
見せる・魅せる
逆に「ああ!今まさに自分の家が他人の目を惹いているのかも」花の季節は、ご用心。そう考えると、バラの手入れだけでなく、庭全体、家も含めた景色全体をもっときれいに整えたい。そんなふうに思います。
花や緑を育て、自分だけが楽しむのではなく「他人に鑑賞してもらう」という自覚。
英国だけでなく、ヨーロッパの街並みは、そうした伝統が長く続いてきましたが、日本でもようやく、景色として「みせる(見せる・魅せる)」ことを意識したガーデニングが、増えつつあるように思います。
こちらはコンテストのバラ。
丹精の緊張感が漂って美しい
他者に見られることを意識すると、少し緊張感が生まれます。向上心が刺激されます。客観性もでてきます。…それは、他人になったつもりで、数メートル離れたところから我が家をちょっと意地悪な気分で観察してみるとよくわかります。
また、思いがけなくコミュニケーションも生まれます。通りに面した場所でバラの手入れをしているとよく声をかけられます。年輩の方が多いのですが、見ず知らずの方とも花を通して会話が生まれます。通りがかりの方から「いつも楽しみにしているんですよ」などといわれると、ますます手を抜くわけにはいかなくなります。
さらに、もうひとつ。ご近所への影響力が少なからずあります。きれいに花を育てているお宅があると、前述のように、花のないお宅はどうしても殺風景に見えがちです。「それでは我が家もひとつ…」と、それで花を植えるお宅も増えていくかもしれません。
素敵なバラ育てのお約束、それは、とにかく見ること眺めること、そして、他者の目を意識する こと。「他人の鑑賞」を大きく視野に入れたガーデニングで、一挙にモチベーションを上げ、素敵な花を咲かせようではありませんか!
It`s our show time !
≪国際バラとガーデニングショウ≫にて
≪国際バラとガーデニングショウ2002≫にて
≪国際バラとガーデニングショウ2003≫にて
吉谷桂子さんプロフィール
東京生まれ。英国園芸研究家、ガーデン&プロダクトデザイナー。
7年間の英国滞在経験を生かした、ガーデンライフを提案。
TV番組や雑誌等での企画、出演、講師を務める。
また、国際バラとガーデニングショウや東京ミッドタウンのコンランレストラン「Botanica」の植栽デザインを担当。
「吉谷桂子のコンテナガーデニング」(主婦の友社)他、著書多数。
著書紹介