「犬にとってカルシウムは摂れば摂るほどいい」と思い込んでいる飼い主さんはいませんか?
しかし、カルシウムの摂りすぎは非常に危険です。今回はカルシウムについてみていきましょう。
1.カルシウムの役割
生体でのカルシウムの一番重要な役割は筋肉の収縮、弛緩です。筋肉を動かすにはカルシウムが絶対に必要です。また、神経の伝達にも関係しています。
<母犬の 産褥 ( さんじょく ) 麻痺(低カルシウム血症)>
出産後の母犬に多く見られる、 産褥 ( さんじょく )麻痺(低カルシウム血症)という疾患があります。子犬に多くの血液中のカルシウムを与えてしまう為に母犬の血液中カルシウムが急激に枯渇してしまう病気です。筋肉が痙攣を起こして手足が突っ張られ、立てなくなってしまいます。ガチガチに筋収縮が続き、発熱するために乳熱なんて呼び名もあります。産褥麻痺の母犬にカルシウムを静脈注射をすると瞬時に回復します。今までもがき苦しんでいた母犬が注射一本で治ってしまうので飼い主には魔法のように見えるほどです。カルシウムってすごいと思う瞬間です。
心臓の筋肉もまた同じく収縮にはカルシウムが関連していますのでカルシウムが低下すると心臓が動けなくなります。つまり「カルシウムなくしては生きてはいけない」ということです。
<カルシウムの貯蔵 >
カルシウムは生きていく上で非常に大事な物ですから、不足した場合に速やかに補わなくてはいけないので、身体には多くのカルシウムが貯蔵されています。おわかりですね?カルシウムの貯蔵庫は骨です。骨の主成分は燐酸カルシウム。血液中にカルシウムが不足すると喉の部分にある上皮小体という分泌腺からホルモンが分泌されて骨のカルシウムを血液中に放出します。これが継続的に続くと骨がもろくなり、簡単に骨折を起こすようになります。
2.カルシウムとリンのバランス
カルシウムの腸管からの吸収にはビタミンDが必要ですが、日光に当たらないと人ではビタミンDの不足から低カルシウム血症を起こす場合があります。しかし現在の犬がビタミンD欠乏から低カルシウム血症を起こすことはまれで、多くはリンの過剰摂取で起きると考えられています。
<リンとは?>
筋肉や骨をつくる原料となる、身体に必要なものです。リンは主に肉類にたくさん入っています。
<リンの与えすぎを防ぐには?>
リンは肉類に多く含まれているので肉の多給を避けます。プレミアムフード(※)を与えていれば問題ないですが、ジャーキーの多給によってはリンの過剰摂取が起きます。
※プレミアムフードとは…より理想に近い栄養を含んだペットフード。多くのプレミアムフードが成長の段階によって子犬用・成犬用などに分類されている。
<栄養性二次性上皮小体機能亢進症>
粗悪なドッグフードを与え続けたり、日の光に全く当たらず、ビタミンDが欠乏したりするとカルシウムとリンのバランスが崩れ、栄養性二次性上皮小体機能亢進症を発症することがあります。栄養性二次性上皮小体機能亢進症とは、栄養バランスが悪いのでカルシウムを補うために二次的に上皮小体が機能を活発にしてホルモンを分泌して骨のカルシウムを血液に放出するという意味の病名です。全身の骨がもろくなり、背骨が圧迫骨折を起こすために背中の上部の変形が見られます。
3.カルシウムの過剰摂取は骨折を招く!
しかし犬の場合は、栄養性二次性上皮小体機能亢進症よりも、カルシウムの過剰摂取による多発性の骨折の方が多く見られます。カルシウムは摂れば摂るほど良いものではないのです。
生後6ヶ月までに低カルシウム食を与えると、骨に異常が出るのは昔から判っていましたが、90年後半から「高カルシウム食を与えても同様に骨に異常が出る」という報告が多くの栄養学者からどんどん出てきました。大型犬に高カルシウム食を与えると肥大性骨形成異常や骨の異常のために整形外科的問題が起きるという報告から始まり、大型犬でなくても整形外科的問題は起こるという報告が相次ぎました。股関節の異常、背骨の変形や手足の骨の湾曲といった様々な骨疾患が報告されています。過剰なカルシウムが発育中の骨に貯蔵されるために異常な骨発生が起きる、という説が有力ですが詳しい仕組みはまだよくわかっていないようです。
ある動物病院でも、通常は高齢犬にしか出ない変形性脊椎症を2〜3歳の若齢で発症し、治療を受けた犬がいました。飼い主に問いただしたところ、子犬の時期にカルシウムの粉を食事に混ぜて与えていたと言うのです。そんな事が、その動物病院で3例ほどあったそうです。
4.プレミアムフードについて
<信頼のおけるフードならば、他に余計な物を追加しない>
現在、プレミアムフードと呼ばれるもののほとんどは成長の段階による分類(子犬用・成犬用など)がしてあり、子犬用のフードは成犬用よりもカルシウムの量を若干増加してあります。子犬用のフードを与えながら、さらにカルシウムのサプリメントを添加するのは非常に危険です。同様に豚や牛などの動物の骨をおやつとして頻繁に与えるのも同じ危険性があります。
成長期でのカルシウムの摂取の仕方はとても大切です。多すぎず少なすぎず、さらにリンとマグネシウムとのバランスをとることが重要です。「そんなの大変」と思われるかもしれませんが、プレミアムフードの子犬用ならばカルシウムとリンとマグネシウムのバランスがきちんとしているので、そのフードを与えるだけ。信頼のおけるフードならば他に余計な物を追加しない方が安全です。
<マグネシウムについて>
マグネシウムの役割はカルシウムと同じ、筋収縮に関与して働きます。割合としてはカルシウム2に対してマグネシウム1を摂取するのが理想です。マグネシウムを多く与えると尿結石に繋がるので注意が必要です。マグネシウムを多く含む食べ物としては海草類がダントツ。その他、肉類や野菜の中にも高マグネシウムのものがあります。
最後に…
犬の健康を守るためには、カルシウムに対する正しい知識と、信頼できるドッグフード選びが大切です。犬にサプリメントやおやつを与える時は十分に注意しましょう。